2011年10月31日

人生の扉

一度も一緒に仕事をしたわけではないのですが、兄弟子の友人ということから、なぜか学会でお会いすると必ず夜中までご一緒する先輩医師がいます。
カラオケがお好きで、しばしば3次会か4次会はカラオケになります。
周りは夜中まで振り回されることになるのですが、明るいお人柄のためか、先輩後輩友人ライバル関係なく、元気のある人(無い人も?)はいつも最後までおつきあいします。

学会で福岡に来たら、やはり仲の良いもう1人の先輩医師から、「病気になったんだって?」とうかがいました。
顔色が悪かったのは、朝7時半からのモーニングレクチャーの座長を仰せつかって(前の晩飲み過ぎないようにとの会長の温かい配慮?)早起きしたからじゃないのかなぁ、と笑ったのですが、どうもそれだけではなさそう。その不安は的中して、懇親会後の飲み会で、とてもにこやかに「腎臓がんやってさぁ。腎臓の半分取っちゃったから無いの」とおっしゃる。
まだ50代半ば。働き盛りの年齢ですから、笑顔の裏にある心情を思うと、一瞬絶句しました。
飲み会での話題は、すぅっとほかに流れましたから、それ以上詳しく聞くことはなかったのですが、次の店に移動するタクシーの中で、「酒? 酒は飲めるさぁ。でもお腹触らないでね、痛いから。・・・執行猶予5年だなぁ」と笑っていらっしゃいました。5年生存率が何パーセントとかおっしゃっていましたが、小さな声で聞こえませんでした。

途中で寄ったホテルで、4次会になる次の店をどこにするのか、一瞬逡巡したのですが、先輩の希望で、結局前にも来たことのあるキャナルシティ裏の不思議なカラオケ屋さんに決まりました。
部屋では全くいつもと変わらず、すでに沢山食べて来たはずなのにまあピザを食べるの酒を飲むのと、お元気そのもの。大好きな歌をシャウトしながら歌うのも、いつもと同じ。
お好きな竹内まりあの歌を一曲歌ったのを聴いて、僕の番でふと何気なく「人生の扉」を歌いました。
歌が始まったら、それまで隣の先生としゃべっていたのに、歌詞の流れるモニター画面をふぅぅっとご覧になりました。

陽気にはしゃいでた 幼い日は遠く
気がつけば五十路を 越えた私がいる

I say it's fun to be 20
You say it's great to be 30
And they say it's lovely to be 40
But I feel it's nice to be 50

そう、ここまでは確かに歌の通りだったと思うんです。
学会でもそれなりに名前の通った医者となり、いくつかの病院で活躍した後転身した開業も順調だし、お子さんも健やかに大きくなっていらっしゃるし(超?高級ベンツを買ってあげたそうです)、端から見れば順風満帆。

満開の桜や 色づく山の紅葉を
この先いったい何度 見ることになるだろう

このフレーズを歌いながら、もしかしたらこれは先輩の今の心情そのものなのか、歌の選択間違えたか? と余計な気を回したのですが、当のご本人は黙って歌詞の流れる画面を眺めるばかりでした。

I say it's fine to be 60
You say it's alright to be 70
And they say still good to be 80
But I'll maybe live over 90

生きられるのならいつまでも生きたいとは思いますが、どんなに頑張っても生きられるのは寿命まで。
その寿命が短いのか長いのか、分からないから良いのだ、と言われたことがありますが、分からないからみんな不安になるわけです。
解夏のように、苦行が結実すれば、そこで開き直れるわけですが、ある日突然病気と寿命を告げられても、誰もがそうそう解脱できるわけもなく、不安を抱え悩み苦しみながら這いずり回るしかない。
やはりがんというのは、自分のこの先を考えさせるだけの衝撃がある病気だと思うのです。

僕だって、五十路が近づき、いつどんな病気に襲われるか分かりません。
家族ができると、家族への責任を強く感じますから、何かあったらどうするか、密かに考えないわけでもありません。
それでもなるべくなら目をそらしたいリスク。こうして現実に突きつけられると、あらためて我が身のことを思うのでした。

君のデニムの青が 褪せてゆくほど 味わい増すように
長い旅路の果てに 輝く何かが 誰にでもあるさ

突然、もう1本のマイクを握りしめて、僕よりも大きな声で歌い始めました。

I say it's sad to get weak
You say it's hard to get older
And they say that life has no meaning
But I still believe it's worth living

本来、このブログで同じ歌を2度取り上げることはしない、と決めていたのですが、どうしてももう一度、この歌で書いてみたいと思いました。
5年の執行猶予期間の間、カラオケに行ってもこの歌を歌うのは封印します。
だから執行猶予があけたら、きっとまた、一緒にこの歌を歌いましょうね、先輩。
posted by GO at 20:26 | Comment(0) | TrackBack(0) | 雑文